秋田家庭裁判所大曲支部 事件番号不詳 決定
少年 Y(昭二〇・二・一二生)
主文
この事件について少年を保護処分に付さない。
理由
本件保護事件記録、調査記録並びに少年、保護者両名の審問の結果によれば、少年が実母○子に対し「母さんヘコしたいよ。」と云つた事実は認められるが、敢えて不倫の行為に出なかつたこと及び、現在においては父母に乱暴し、保護者の正当な監督に服しないことが存しないことが認められる。加えて、少年の性格環境が漸次好転していることが窺われるのでこれら諸般の事情を併せ考慮するとき、少年に対し保護処分を要するほどの特別の事情が認められないので、少年法第二三条第二項により主文のとおり決定する。
(裁判官 根本隆)
別紙一
抗告審の決定(仙台高裁秋田支部 昭三七(く)一号 昭三七・四・一〇決定 法定代理人母抗告)
主文
原決定を取消す。
本件を秋田家庭裁判所大曲支部に差し戻す。
理由
本件抗告の理由は別紙のとおりである。
原決定の認定した本件虞犯事実は、少年が家庭にあつては父母に乱暴し、保護者の正当な監督に服しないのみでなく、情欲の趣くままに昭和三十六年十一月二十七日及び二十八日の二回にわたり実母に性交を要求し、不倫の行為を敢えてせんとしたもので、性癖、家庭の環境から将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をなす虞があるというのであるが、少年に対する保護事件記録、調査記録、当審における証人○木○作の尋問調書、抗告人○木○子、及び少年本人の審問調書によれば、少年が昭和三十六年十一月二十七日及び二十八日の夜、就寝後、実母○木○子に対し「母さん、ヘコしたいよ、ヘコしたいよ」といつた事実が認められるが、原決定のいうように、「実母に性交を要求し不倫の行為を敢えてせんとした」事実は之を認めるに足る証拠なく、反つて少年の右所為は後記のごとき一時的な自暴自棄による精神的動揺から生じた放言と認むべきで他に少年に自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖を窺うべき事由は存しない。次に保護者の正当な監督に服しない性癖の有無につき検討すると、前記記録によれば、少年は原決定の一ヵ月前である昭和三十六年十一月十五日に恐喝、窃盗、詐欺保護事件で原裁判所において保護観察に付する旨の決定をうけたこと、その後少年は自宅で実父と共に農業日雇をしていたが、未だ担当保護司と充分な連絡がとれず、保護観察処分が実效を伴わないでいた矢先編入手続をとつていた○○高校から編入不許可の通知があつたことを知り、失意落胆の末一時的自暴自棄となり、家庭内で実父、母に当りちらしたこと、したがつてこの点で少年が保護者の正当な監督に服さなかつたことが認められるが、本件がいわば家庭内の事件で、実母○木○子の通告に基いて立件されたもので、原決定が右通告人の真意に反すること、その他少年の性格、環境等諸般の事情を併せ考えると本件における程度の少年の虞犯事実を以つて少年を中等少年院に送致する決定をするのは処分に著るしい不当があると認められるから取消を免れない。本件抗告は理由がある。
よつて、少年法第三三条第二項により原決定を取消し、事件を原裁判所に差し戻すこととし主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松本晃平 裁判官 石橋浩二 裁判官 佐竹新也)
別紙二
抗告の理由
私は少年の母です。純情な一傷痍軍人の片腕に成るから結婚してくれと私よりプロポーズしたのですが、片腕どころか手の不自由な上に身体に数多くの傷こんの有る夫を独り働かして毎日私は坐つたきりの生活をしてきました。生活能力がない力がない無能の夫と叫び続け果ては飯を喰うな出ていけ等弁当も持たせず喰べさせずに働きにやつた事も屡々でした。務め先よりは勝手に前渡いたし先方の主人の前でさんざん夫に罵倒を浴びせ子供方にもお父ちやんの貧乏人よ、生活能力のない馬鹿者よと教えたことも有ります。夫の言い分に対して一度だつて妻の座に下つて然うですねお父さんと素直な返答をしたこともなく、やかましいうるさいの一点張りを通して来ました。世間の人々には夫の悪口のみ吹張し常に私のみさかしい立派な人間だと見せよう見てもらいたいと思つて来ました。酒等改めて買つてやつた事もなく仕事の出張先での御馳走でした小遣いもやりませんし煙草銭もろくにやりませんでした。大酒のみとは私の真赤な偽りです。私がお産をしても家事一切の世話は夫ひとりの手にゆだね、親類、知人の面倒に等一回だつて成つた事などございません。一旦かんきゆう有れば義勇公に奉じ支那大陸に奮戦いたし、平和となつて傷痍の身の苦痛を克服して社会のため家のため子のために働き技術を生かしてきた夫は私の言うべき処とてみじんだになく、夫の曰く収入を全部消費する事なく、其の内よりいくばくなりと節約して身の廻りのもの、子供のものなんかと主張してきましたが、私にはうるさいの一点張りでした。一昨日(十六日)審判より帰宅Yちやんは学校へいきたい、学校へいきたいといつていたから今回仙台の立派な学校に入つて立派な人になつて帰つて来るから、お前達もYちやんに負けない立派な人間に成るんだと大判焼をYの弟にわけ与えました。然し乍ら一昨日の審判は私の嘘出鱈目よりの口実、供述によつて行われYの涙ぐましいばかりのこのいたいけな便りの持主の心も汲んでもらへず私の勝手な供述を元に之を信じて行われた審判に違い有りませんと私は確信いたします。之は正しい判決ではないと思います。Yのこの三枚の便りより測つてYは決して二度と皆様のお手を煩はさぬと母の私は責任を以て命にかへて裁判所の皆さんにお誓いいたします。私がこの生みの母親がYを教育しないで誰が国家がこの可哀想な子供を教育してくれますか、Yちやんの鑑別所ゆきによつて私の二十二年の妻の道の間違つた生活にピリオドを打ちました。私は始めて悪かつたと反省しざんげしました。Yの鑑別所入りは無駄でなかつた、私の家庭にYは百万ワットの灯をともしてくれましたと万腔の感謝を以て私はこの胸にこの腕にYを抱いて立派な人間にいたしますと裁判官の方にお約束いたします。私の腹をいためた子供です。以後は決して如何なる事が有つても二度と再び皆さんのお手を煩わす事は致させません。夫の収入の多少の如何によつて夫の地位と価値がゆらぐものでない右手右腕となると誓つて片輪者との結婚に乗り切つた私がいかなる事に直面しても一ヵ月も家を明けて夫に家事一切のきりもりから生活費を働かせ帰宅してみれば私よりも立派に一路整然と家の中はきれいにきちんと整とんして有りました。その間Yにも東京の実家へこの愚かな母を探しにいつたり又家事をすけたり本当に本当に苦労をかけましたYの成長を喜び成人して一日も早い上京を希望していた私の母はYが今少年院の門をくぐる事によつて七六才の老いた母は落胆の余り打ちひしがれる事でしよう、私は今迄夫に対しYに対して済まない本当に申訳ない妻で有り母でした何卒今日を以つてこの罪をお許し下さい私は生れ替つて家のため尽します。裁判官様この度の件世間の皆さんに対し及した事でもなく又その様な行動に移つたものでもなく口走つた事のみです。Yは罪を許してくれと泣き崩れ判事様に合掌して号泣した事と思います不幸にも私はいかれませんでした何卒この母のこの私の真実のざんげに対しましてこの私のほと走る真情をみとめて下さいますなら一日も早くYをこの母にお返し下さいます様何卒何卒今一度裁判をして頂きたくここに抗告申立書を提出いたし伏して御願い申上げる次第でございます。
別紙三
原審の決定(秋田家裁大曲支部 昭三六・一二・一六決定)
主文
少年を中等少年院に送致する。
当裁判所が昭和三十六年十一月十五日為したる少年を保護観察に付する旨の決定は之を取消す。
理由
一、虞犯事実
少年は昭和三十五年四月から△△高等学校に入学して居たものであるが昭和三十六年春頃から△△町居住の不良と交遊し、学業を怠り夜遊び外泊をする様になり、此間異性との情交を覚える等不良化した為めに七月二十五日高等学校退学の止むなきに至り同年十一月十五日当裁判所に於いて恐喝、窃盗、詐欺の非行による保護観察処分に付したのであるが何等反省するところなく、家庭にあつては父母に乱暴し保護者の正当な監督に服しないばかりか情欲の趣くままに同月二十七日及二十八日の二回に亘り実母に性交を要求し、不倫の行為を敢えてせんとしたものにして少年の性癖及家庭の環境に照し将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為を為す虞があるものである。
二、法律の適用
少年法第三条第一項第三号
三、主文掲記の保護処分に付する理由
(一) 少年は主文掲記の如く昭和三十六年十一月十五日当裁判所に於いて恐喝、窃盗、詐欺の非行により保護観察に付されて居たものであるが何等反省の色なく保護者の正当な監督に服せず敢えて本件不倫の行為に出でんとしたものである。
(二) 少年の学校時の性癖及鑑別の結果は△△高等学校長の回答書及秋田少年鑑別所の鑑別結果通知書記載の通りである。
(三) 家庭は実父母、兄一人、弟二人の六人家族であり、兄は目下自衛隊に入隊中である。資産は田一反四畝歩、畑五畝歩の外茅屋一棟を有する貧農で父は戦争により手首を負傷した傷痍者であるが母と共に主として日雇等の収入により生活を支えて居るが生活は容易でなく部落では下位である。父は家庭の貧困を顧みず酒を好み益々家庭を貧窮に追いこんで居り父母共に性格の相違と貧苦の為め子供の前をはばからず喧嘩口論が絶えず、その為め母は一時家出して女中生活をしたこともあり少年等に対する悪影響甚しく少年の父に対する反感蔑視となり部落民の頻しゆくを買つて居る。
母は子供に対し厳しい躾をする様であるが干渉し過ぎて却つて反感を招き父は子供に対しては全く無関心であり、むしろ少年に恐れを抱いて居る方で指導監督の能力はない。
(四) 少年は二男として生まれ家が貧しく兄が高等学校に入学することが出来なかつた為め兄の要望により△△高等学校に入学することが出来たが、此間の事情を弁えず二年に進学するや△△町の不良徒輩と交遊し学業を怠り非行を累ね学校当局の指導に従わないところから前記の如く退学の止むなきに至つて居る。性短気にして意思薄弱、軽卒にして退行的な爆発攻撃の反応を反復することがあり在学中も暴力行為により一週間の停学処分を受けたことがあり家庭に於いても時々父母に暴力を振うので父母共に少年を恐れ逃避することがある。高等学校二年在学中△△町の不良と交遊し(Aは懲役刑で入獄BCは保護観察処分となつている)其間不純な性交を覚え性的道徳観は低下し遂いには母に対して迄も不倫の行為を要求するに至つたものである。
母に対して迄も性的異状行動に出る少年は其性格上にも家庭の上に於いても大きな問題である。此際更めて少年に対し相当厳格な教育を施し正常な社会化を図らねば家庭の内外に於いて将来罪を犯し又は刑罰法令に触れる行為を為す虞れなしとしない。
されど少年の家庭環境前記の如くなる以上少年を家庭に送ることは再発の危険こそあれ少年の指導教育は望むべくもあらず、決して少年を遇する所以のものではない。此際施設に収容し倫理等相当の社会教育を施し少年の社会適応性を涵養する必要があると認める。
(五) 仍つて少年法第二四条第一項第三号、同法第二七条第二項を適用し主文の通り決定する。(裁判官 渡辺才源)